西にいなむとて旅立ちたる男、ある歌を聞きて、おほむかしより知れる女を思ひ出て、え忘れずなむありける。問はむとて、男かくなむ。
会いたくてなんにもかもが菜ノ花だ
かかるほどに、さる女のもとにぞいたりぬる。男、かの女いまだに恋しくなむありけれど、知らぬあひだにものをしてけり。男、はしゃぎまはる幼子をかなしくしければ、えあるまじきことさへいたくのぞみけれど、かひなかるべし。わかれぎはに女、衣ひとへおこせけり。男、しづかに去れど、心いたう苦しかりけむ。女の知らずに、男、心細う思ひつる時など、さる衣を着てぞ寝たりける。
あの人の愛につつまれまどろめり
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