夏の時に、男、天のいとはげしう燃えたるに、しぶしぶ学びのそのへ足を運びけり。夏の空気ぞ水のごとく湿りて、ひたすら走りても、しづかに寝ても、やうに汗の滝ながせる暑さなりけり。学びなどむなしうあれど、坐りたるのみにてや疲れはて、男、日が暮れむに急ぎてかへりの電車に乗りぬ。されば、ほとりの人々の脇さへにほふやうに詰め込まれにけり。うす暗き夕闇をつらぬきはしりたる電車の外をながめて、男かくなむ。
つかれ目で見て見ぬ夕日かへり道
うちくたびれてかへりぬる男、こはばる筋肉をほぐしに風呂に入らむとて、風呂場に踏みいれば、湯船にて奇異なるかすみぞただよひけり。かれはなんぞとて、男かくなむ。
立ちのぼるほのかな煙たぶん無毒
ようよう見れば湯気なれど、のちに男、あたま禿げそめにければ、縁なしとはかぎらず。
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